王子様とハナコさんと鼓星
それから約1時間半、車を走らせた。
どこに向かっているのか、結局なにも教えてくれないまま。車の中では時折沈黙になるけれど、それなりに楽しいと思える時間を過ごした。
「ついたよ」
「は、はい」
車から降り、周囲を見渡すとどうやら何処かの公園のよう。その場所に思わず首を傾げて社長を振り返る。
「あの、ここはいったい」
「いいから。あ、少し寒いね。ちょっと待ってて」
後部座席のドアを開けて何かを取り出すと、私の正面に立ちソレを首に巻きつける。黒に近い赤色のマフラー。とてもいい匂いがする。
「風邪をひいたら大変だからね」
「あ、りがとうございます。でも社長が」
「俺は平気だよ。身体は強いからさ。それより、この先暗くなるから」
手を目の前に差し出される。大きくて細長い指。ドキと胸が高鳴る。でも、その手に触れるのは少し怖い。
当たり前のように差し出してキラキラした笑顔を浮かべる社長は様になっていて、如何にも慣れているようだった。色々な女の人にこのように手を差し出して来たに違いない。
それを分かっていて、果たしてこの手を取ってもいいのか。
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