王子様とハナコさんと鼓星


握られていた手を離して、社長は時計をみた。


「いい時間。空を見て」

「え…あ…うわっ!」


促され、空を見上げると其処には満点の星空が広がっていた。ここに来て、社長に言われるまで気付かなかった。


「凄い…こんな満点の星空は久しぶりに見ました」

周りに明るいものや、空を遮る建物はない。そのため、一面の星空がよく見える。


なんて綺麗なんだろう。都会でこんなにも美しい空が見えるなんて思ってもいなかった。

がらにもなく感動して何も言えないでいると、空に一筋の光が走った。


「あ、社長!今の流れ星ですよ!」

「うん」

「凄い!あんなに大きな流れ星は初めてみました…」

「今日は流星群が1番多く見える日で楽しみだったんだ。流星群がある時期は必ずここに来る」


空に向けていた視線を私に移す。私も引きつけられるように社長を見ると、相変わらず王子様のような笑顔を浮かべていた。


「星を見れば少しでも元気が出て嫌な気分が消えるかなと思って。俺の、特別お気に入りの場所」

「社長…」

「嫌だったかな?こんな所より、夜景の見えるレストランとかでディナーが良かった?」


「そんな事ありません!星は見るの好きです。詳しくはないですけど」


「本当に?よかったよ」

(社長…もしかして、私を元気付けようとしてくれたの?あんな事があったから?)


素直に嬉しいと思った。此処に連れて来てくれた事に。こんな私を社長の好きな場所に足を踏み込ませてくれた事に。
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