副社長と秘密の溺愛オフィス
「とりあえず、俺は平気だから。お前は帰れ」

「え? そんな無理ですっ!」

 ぶんぶんと頭を振って、不安そうな顔でこちらを見ている。

「大丈夫だ。俺を誰だと思っているんだ?」

「でも……絶対バレちゃいます。どうしよう。これ以上周りに心配かけたくない」

 不安そうな明日香を勇気づける。

「俺は今までどんな困難も乗り越えてきただろう。お前が一番近くでそれを見てきた違うか? それに俺にも考えがある。だから安心しろ」

 そこまで話をすると、扉の向こうから黒田の「まだか?」と言う声が聞こえてきた。

 しばしの別れを惜しむ恋人たちに、無粋な奴だな。

「とにかく、お前は何も心配するな。ひとりで帰れるな?」

「……はい」

 彼女はしぶしぶうなずいた。

「ちゃんとタクシーに乗れよ。俺くらいイケメンになると、外をひとりで歩くのも危ない」

 呆れたような笑いを浮かべた彼女を見て、安心した。

 コンコンと無粋にノックをしてくる黒田に煽られるようにして、明日香がドアノブに手をかけた。

「部屋のモノ、漁らないでくださいね」

「あぁ。わかってる」

 しっかりと釘を刺して出ていく明日香を見送り、俺はベッドに横になり、幼い頃から彼女が見ていたであろう天井を見て、考える。

 正直明日香を先に帰してもらえたことは、ありがたい。そのほうが俺の思い通りに事を運ぶことができるからだ。

俺の格好をした明日香に見せる態度で、黒田の気持ちは十分にわかった。俺の立場を脅かす存在はさっさとつぶしておくほうがいい。

 面倒な時ほどワクワクしてしまう。うっすらと笑いを浮かべたときに扉の向こうから声がかかった。

「明日香ちゃん、起きてるならこっちで少しお茶飲まないか?」

 さっそく相手からの誘いだ。のらないはずはない。

「あ、はい。すぐに行きます」

 俺はベッドから降りると、大きく伸びをして敵が待つリビングに向かった。


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