副社長と秘密の溺愛オフィス
ダイニングにはいつも彼女が使っているだろうマグカップが置かれていた。そこに座ると向かいに黒田が腰掛けた。
  彼女の家の台所まで把握しているほど、黒田と乾家のつき合いが長くそして深いものだと感じる。

「明日香ちゃんの好きなほうじ茶だ。ほら、とりえず飲んで」

「うん」

 あいつ--ほうじ茶なんて好きなのか。

 俺の知らない明日香のことを、黒田から聞かされ若干ムッとするが、今大事なところはここではないので、ぐっと我慢した。

 促されて飲んだほうじ茶がうまくて、それもまたムカつく。

「明日香ちゃん……おかえり。大丈夫だったのか? 見舞いに行ったらもう退院した後で、そのあとはこっちにも帰ってこないし心配してたんだぞ」

「え、あぁ。悪――ごめんなさい」

 明日香のことだから、連絡はしていただろうけれど、メールやSNSで、だろう。声が違うのだから仕方のないことだろうけれど、家族としては心配だったに違いない。

 お互いのことだけで精一杯で、家族のことまで気にかけてやることができなかったことを、今更ながら後悔する。

「それで、事故の怪我の方はどうなんだ。もうどこも痛くないのか? 昔から痛いの苦手だっただろう?」

 奴の手が伸びてきたのを、さっと避けると驚いたような顔をした。

 心配しているところ悪いが、明日香の体を他の男に触らせる気などない。

「大丈夫。紘也さんがきちんとケアしてくれているから」 

 牽制するように〝紘也〟という名前を出したら、途端に態度が変わる。

 わかりやすい奴だな。

「甲斐副社長とはいつから、そんな関係になったんだ?」

 ずばり本題に入ってきた。

「事故に遭う前から、好意は寄せていたんです。でもお互いに命の危機を感じて大切なものに気がついた」

 これは紛れもない事実だ。ただし俺の気持ちで、明日香の気持ちではないけれど。
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