副社長と秘密の溺愛オフィス
「これでは現場の安全の確保ができない。至急前回の指示通りに変更してください」

 現場の総監督と責任者に紘也さんが伝える。

「おいおい、いつからこの小娘はこんなに偉くなったんだ? 甲斐副社長、あなたの教育はどうなっているんだ。結婚するからって、今からこんなに現場に首を突っ込まれたんでは、やりにくくて仕方ない」

 たしかに現場にいる人たちは、明日香の姿で色々と指図する紘也さんを不審がっている。わたしがちゃんと彼の代わりをできなかったせいだ。

 一歩前に出て皆に頭を下げる。

「そのことについては、申し訳ありません。ですが彼女の言っていることは間違っていません。至急現場の改善をお願いします」

 わたしが頭を下げると、副社長の指示と受け取った現場の人々はすぐに作業にとりかかった。

 紘也さんは隣でもどかしそうに髪をかき上げ、悪態をついた。

「チッ。余計なことばかりしやがって……」

 小さな声で呟いたのだが、悪口ほど人に聞こえるもの。彼の言葉は専務の耳に届いていた。

「余計なこととは、どういう意味だ。わたしは現場のことを思って――」

「それが余計なことだって言うんだ。よくわかってない奴が口出しすると、現場が混乱する。あんたみたいに急にやってきて偉そうな顔をするやつは特にだ!」

 紘也さんは仁王立ちになり、腰に手をあてて専務の鼻先に人差し指を突きつけた。
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