副社長と秘密の溺愛オフィス
「な、なんて失礼な奴だ」

「も、申し訳ありません……」

 慌ててわたしが間に入る。今できることは、頭を下げてこの状況を収めることだ。

「おい――」

「いいから、乾さんも頭を下げて」

 紘也さんの頭を無理矢理押さえつけると、彼も渋々「申し訳ありませんでした」と謝ってくれた。

 そのうえでわたしは専務に伝えたいことを口にする。

「たしかに彼女の言い方は悪かったです。そこは謝りますが、今回の専務の判断は間違っています。大きな事故がなかったからよかったものの、これからはご意見がある場合はまず、わたしに連絡をいただいてよろしいでしょうか?」

「な、なにを言ってるんだ。まったく反省してないじゃないか!」

 専務は激高していたが、これは譲ることができない。

「上からの指示がぶれれば、下で働くものは混乱します。それが大きな事故につながりかねません。ですから――」

「うるさい。俺もコケにするのもいい加減にしろよ! いい気になっていられるのも今のうちだからな。俺がお前を引きずり降ろしてやる」

 捨て台詞を吐くと、彼は怒りをあらわにしたままその場を去っていった。

「はぁ」

 緊張から解放されたわたしは、大きなため息をついた。その隣で紘也さんは「あははは」と声を上げて笑っている。
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