副社長と秘密の溺愛オフィス
 紘也さんが契約からずっと携わってきたこの案件。わたしにとっても、また携わってきたすべての人にとっても大事なものだ。それをよりいいものにできるようにすることが、今のわたしにできることだ。

「行くぞ、明日香」

「はい」

 待たせてあった車に乗り込んで会社に向かう。

「戻ったら、明日の会議の資料読んでおけよ」

「あ。はい……あれ?」

 あれ、大乗専務? いや、彼は先に帰ったはず。

 現場の裏側を車で通りすぎる瞬間、現場の事務所代わりにしているプレハブ前に専務の姿を見た気がした。

「どうかしたのか?」

「いえ、なんでもないです」

 きっと見間違いだ。あんなに怒っていた専務が、まだ現場にとどまっている理由などないのだから。

 少し気になったけれど、その後の仕事に追われてわたしはすっかりその出来事を忘れていた。

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