副社長と秘密の溺愛オフィス
「元に――元に戻るだけです」

「戻る? どういう意味だ」

 思いを押さえつけ絞り出す声が掠れる。

「あの事故に遭う前、わたしは退職するつもりでした。それがあの事故のせいで、わたしたちが入れ替わってしまったせいで何もかも変わってしまった」

 明日香は、俺の方を見ず淡々と話す。

「体が元に戻った以上、わたしがここにとどまる理由はありませんから」

「理由がない? 俺は、お前を引き留める理由にはならないのか?」

 彼女の気持ちがわからず、責めるような言い方になってしまう。思いが通じ合ったと思ったのは、俺の勘違いなのか?

 俺の言葉にハッとした明日香が、初めて俺の目を見た。赤く腫れた目には涙の膜ができている。

「俺から離れるのが、そんなにつらいならどうして、辞表なんて出すんだ。昨日のアレはなんだったんだ?」

 理解ができず、彼女の両腕を掴んでゆする。すると彼女の瞳から涙がこぼれた。

「あなたの隣にいるには、わたしには荷が重すぎるんです」

「……っ」

 明日香の訴えになにも言い返せなかった。
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