副社長と秘密の溺愛オフィス
 俺と入れ替わってしまったばかりに、馴れない副社長の仕事をさせられ、監禁までされた。

面倒なつき合いもしがらみも多い。俺の傍にいることは、ふつうの恋愛とは違う。

『守ってやる』なんて偉そうに言ったけれど、彼女に大きな負担をかけたことは間違いない。だけど……だけど、明日香なら……そう思っていたのに。 

 なんとか言いくるめて、自分の傍に置きたい。一瞬、自分勝手な思いが頭の中をよぎる。けれど彼女自身の決断を、俺が捻じ曲げることはできない。

 そんなの俺の好きな明日香じゃなくなる。彼女を言いなりにしていいはずなんてない。

 今、この瞬間ほど自分の置かれている立場を恨んだことなんてなかった。しかし俺の傍にいることがつらいと言われれば、これ以上何もできなかった。

「わかった……今まで、悪かったな」

 彼女の腕から手を放す。おそらくこれが彼女に触れる最後になるだろう。彼女の顔をじっと見つめる。

「わたしこそ、お世話になりました。昨日もわたしのわがままにつき合ってくれてありがとうございました。副社長のおっしゃったとおり、忘れられない最高の思い出になりました」

 まだ泣き出しそうな顔で、無理矢理作る笑顔に胸が締め付けられる。

 そんな顔させたくない。

「――本当にダメなのか?」

 どうしても諦められない。かっこ悪いとわかっていても、最後の悪あがきで彼女をひきとめようとする。

 すがるような目で明日香を見るが、それを振り切るように彼女は頭を左右に振った。

「では、打ち合わせに行ってきます」

 勢いよく頭を下げると、明日香は振り返ることもなく部屋を出ていった。
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