副社長と秘密の溺愛オフィス
東京駅、スーツ姿のサラリーマンの多くいる新幹線のホームにわたしは立っていた。目の前には博多行きの東海道新幹線が止まっている。

「明日香ちゃん、遅かったね。もう来ないかと思った」

 ホームでわたしを待っていたのは、大地さんだ。手には旅行用のボストンバッグを持っている。

「ごめんなさい。ちょっと色々と用事があったの」

「全部解決した?」

「うん。まあね」

 解決と言っていいのだろうか。ただの自己満足かもしれないけれど、わたしが前に進むためには必要なことだ。

「岡山のおじさま達には連絡した?」

 大地さんのお父様は国税局を退官したあと、税理士として地元岡山で開業していた。そのお父様が急なご病気で引退することになり、大地さんは東京での開業ではなく急遽岡山でお父様の事務所の跡を継ぐことになったのだ。

「ああ、久しぶりに会うから楽しみにしてるって言ってた」

「そう」

 発車時刻まではまだしばらくある。わたしたちはゆっくりとホームを移動しながら話を続けた。

「向こうの事務所の準備はにどれくらい――きゃあ!」

 背後から急に腕をひっぱられた。倒れ込みそうになったわたしを誰かが支える。ふわっと香る、爽やかな香水の匂
い。その匂いを嗅いだだけで、その人物が誰であるかわかってしまった。振り向くのが怖くて、震えながら俯いた。

 目の前にいた大地さんも驚いていたが、すぐにわたしの方に手を伸ばす。

「甲斐さん、今更何しに来た。すぐに明日香ちゃんの手を離すんだ」

 しかし、紘也さんはわたしを掴んでいるその手に逆に力を込めた。
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