副社長と秘密の溺愛オフィス
「嘘ってなに?」

 いつもは冷静な紘也さんが、少し慌てているのを見て、何かあるのだとピンときた。

「お兄さんが姉ちゃんの居場所探してたみたいだから、大地さんの両親のいる岡山に行くために東京駅にいるって言ったんだ。我ながら機転が効くだろう?」

「うそ……」

「ウソじゃないよ。そしたらお兄さん焦っちゃってさ、その後僕の話なんてろくすっぽきかずに電話切っちゃって――」

「もういいから、わかった! わかったから。あ! そうだ、翼お前彼女と沖縄行きたくないか? うちの別荘があるんだ。ちょうど卒業旅行も兼ねてふたりで行ってきたらどうだ?」

「え? マジっすか! うれしい。電話しよ~と」

 ウキウキした様子でソファに移動した翼は、さっそく彼女に電話をしはじめた。

 たしかにあの日、どうして紘也さんが東京駅に現れたのか不思議だった。それに大地さんとわたしのことを誤解もしていた。

 それが翼の仕業だったなんて。

 隣に座る紘也さんを見ると、手酌でワインを注ぐとぐいっと一気に煽った。

「紘也さん?」

「ん? なんだ?」

 返事はしてくれるけど、こっちを見てくれない。ふと彼の耳が赤いことに気がついた。お酒に強い彼が、今日飲んだ量のワインぐらいで酔わないことをわたしは知っている。
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