副社長と秘密の溺愛オフィス
「なんて言ってたんだ? ほら、言ってみろよ」

 ぐいっと鼻先までせまられて、その迫力に気圧される。

「いや、あの、その……」

 そのままストレートに伝えることが憚られて、言い淀んでしまう。

「いいからはっきり言えってば」

「えっと……不能なんじゃないかって……」

 ごにょごにょと、ごまかしながら告げたけれどしっかりと彼の耳には届いていたようだ。

「はぁ? この俺が不能だと⁉ そんなわけあるか、明日香だって知ってるだろ、今朝だってギンギ――」

「ストーップ!」

 わたしはそれ以上聞いていられずに、耳を塞いだ

 紘也さんは、髪をかきあげて怒りを治めるためか「ふー」と大きく息をひとつ吐いた。

 その様子を見てわたしは、耳を塞いでいた手を元に戻すと、彼が話を続けた。


「彼女とは本当にそういう関係じゃないんだ。仕事上つき合いがあるから、何度か食事しただけ」

「そうだったんですね」

 仕事の関係だけなら、ふたりっきりで食事なんてするだろうか。ましてや〝何度か〟なんてこと……。釈然としない。

「本当だって、たしかに向こうはその気があったんだと思う。だけど俺はそういうつき合いはできないから、本当に仕事相手として彼女には接していたつもりだ。誤解させた俺も悪かったんだろうけどな」
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