副社長と秘密の溺愛オフィス
「あら、アタシもデザイナーとして鼻が高いわ! で、さっそく今日はあなたをシンデレラにするべく、殺人的なスケジュールの合間を縫って、この女傑に連れ戻されたわけ。だからあまり時間がないのよ。だからほら、行くわよ」

「え? どこに」

 お母様とふたりっきりになるなんて、檻の中に虎と一緒に入れられる気分だ。あせって目で紘也さんに目で「ひとりにしないで」とアイコンタクトをする。

 しかし願いも虚しく、幹也さんはさっさと紘也さんの背中を押して寝室に向う。

「無粋な兄貴にドレスに口出しされたくないから、あっちで採寸と打ち合せをしましょう。あ、安心して。アタシ他人の女には興味がないし、それにいい女を嫌ってほど見慣れてるから、チャオ!」

 ひらひらと手を振りながら寝室のドアの向こうに消えていった。あまりのことに固まったままその扉を見つめる。

「紘也ったら、そんなに彼女が心配? 大丈夫よ、餅は餅屋って言うでしょう? あんなただけど、あなたが幹也の才能を一番評価していたんだから、大船にのったつもりでいなさい」

「はい、そうします。あ、お茶淹れます」

 立ち上がったわたしを見て、お母様がぎょっとした顔をする。
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