副社長と秘密の溺愛オフィス
「紘也あなた、熱でもあるんじゃないの? まさか今頃になって事故の後遺症がっ!? とにかくお医者さま――」

「いえ、いえ、大丈夫ですから。あのその……そう! 明日香に教えてもらったんです。彼女お茶を淹れるのすごく上手だから」

 自分で自分を褒めるのは恥ずかしいが、今は仕方ない。

「そ、そうなの? 前回彼女が入れてくれたお茶……実ははすごくまずかったから……。まぁ、そう言うならお願いしようかしら。あなたも変われば変わるものね」

 とりあえずの時間稼ぎはできた。寝室からあの兄弟が出て来るまで、わたしはひとりでお母様の相手をしなくてはいけないのだ。

 紅茶を淹れる間に、気合いを入れ直した。

 いざ出陣!

 トレイに紅茶を乗せ、お母様の元に向かった。

「どうぞ」

「ありがとう」

 カップを手にとり、恐る恐る口をつけている。どうやら前回紘也さんが淹れた紅茶は相当ひどかったみたいだ。

「あら、おいしい!」

 一口のんだお母様の顔が、ぱっとほころんだ。よかった、美味しいって言ってもらえて。

 無事におもてなしができて、それまでの緊張がすこしやわらいだ気がする。わたしも一緒に紅茶をいただいた。

ファーストフラッシュのダージリンは若干色が淡い。けれど香りが高く、さわやかだ。おいしい紅茶で落ち着いたわたしは、お母様の話に耳をかたむけた。
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