副社長と秘密の溺愛オフィス
「紘也、身体の調子はどうなの?」

「えぇ、事故の影響もほとんどなく、元気にしております」

「そう、それはよかった。明日香さんも?」

「はい。彼女のほうも大丈夫のようです」

 本当は中身が入れ替わっています、なんてとてもじゃないが口にはできない。

「そう、それはよかったわね。だったらすぐに孫の顔も見られるわね」

「そう――ま、孫っ!?」

 サラッと言われて危うく聞き逃すところだった。

「なによ、そんなに驚くこと? さっさとかわいい孫をわたしに見せて安心させてちょうだい」

 それって紘也さんとわたしが……ってことだよね?

 菩薩のような顔でにっこりとほほ笑んでいるお母様に対して、わたしは変な妄想をしてしまいパニックだ。

「あら、なに恥ずかしそうにしてるのよ? やることやってるんでしょ?」

 お母様――な、なんてことを!?

 この親にしてあの子あり――紘也さんがはっきりものを言うのは、きっとお母様に似たからに違いない。

「あの、鋭意努力いたします」

「そう、楽しみだわ。さっさとやることやってないと、明日香さんに逃げられるわよ。あんな素敵な方、二度と現れないと思いなさい」

 人差し指を突きつけられて、言い聞かせるようにして言われた。しかしお母様の言葉に驚き信じられずに、聞き返した。いったいどういう意図があるのだろうかと。
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