副社長と秘密の溺愛オフィス
 一息ついたときに、向こうから幹也さんがこちらに向かって歩いてくる姿が見えた。敵陣の中で味方を見つけたような気持ちになって、思わず顔がほころんだ。

「兄貴、そんなところで何やってるのよ。なんだか捕虜みたい」

 まさに言い得て妙。今のわたしは敵の中に放り込まれた捕虜だ。

「そう、そうか?」

 やっぱり親しい人には、態度の違いがバレてしまう。もっと気をつけないと。ひっそりと反省したときに、幹也さんの隣に立つ女性に気がついた。

 少し背の低いその女性は、可憐な花のようだ。まっすぐでつややかな黒髪は手入れが行き届いていて、清楚な印象にぴったりだ。透き通るような白い肌、会場の熱気ですこし赤くなった頬が愛らしい。大きな瞳で見上げるようにわたしを見つめていて、思わず吸い込まれそうになった。

 この顔には見覚えがある――。

 つかさ銀行の頭取の娘さんで、たしか――深山(みやま)千佳子(ちかこ)さんだ。
 
 何度かこういったパーティでみかけたことがある。
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