クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「優姫にちょっかいをだしたのは、本当にきまぐれで、暇つぶしだった。周りに合わせて自分を作っているくせに、そのせいで傷ついた顔をしたり、自分の気持ちを押し殺して、誰かのために必死になったりする姿を見て、馬鹿だなって苛立って、腹立たしかった」

 私は思わず顔を歪める。わかっていた、知っていたことなのに。

 周りから求められて完璧に自分を作っていた幹弥からすると、私はただ周りに合わせて、自分を出すこともできずにいただけだから。幹弥が私に嫌悪感を抱くのもしょうがない。

「……でも、俺は優姫みたいに、あんなにもあっさりと自分を作っているのを、ほかの誰のせいでもない自身の意思だって認めることはできなかったよ」

 そこで、彼と初めて図書館の五階で会ったときの会話が頭を過ぎる。

『いいよ、わかってる。一馬が私のこと、そういう対象として見てないのも。変わりたいのに変われないのを、あいつや周りのせいにしてる自分も』

 思い出している隙に幹弥はおもむろに私との距離をさらに縮めて背を屈めると、目の高さを合わせてきた。

「馬鹿で、俺よりもずっと不器用なくせに。憎らしくて、眩しくて。俺とは真逆で……だから、欲しくなった」

 私はこれでもかというほど目を見張る。幹弥の言葉の意味をどう捉えていいのかすぐに判断できない。それでも幹弥ははっきりとした口調で言葉を紡いでいく。

「十年前は、子どもだった。自分の意思だけではどうにもならないから、素直に欲しがることができなかった。……でも、今は違う。優姫が俺のことを嫌いでも、必ず手に入れる。だからいい加減諦めて、俺のものになれよ」

「嫌」

 そんなに大きくない私の言葉に、幹弥は眉をしかめた。かまうことなく私は早口で続ける。
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