クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「へぇ。自分から嫌いな男に抱かれにきて泣くなんて、どんな自虐趣味? それとも自己憐憫? そういうとこ、本当に昔から変わらないよね、優姫は」

 冷たさを伴う笑顔だった。軽蔑したような、呆れたような。でも、それでいい。甘くて優しい顔を見せられるより、そんな彼の表情にどこかホッとしてしまう自分は、やはり彼の言う通りなのかもしれない。

「まぁ、いいや。お望み通り、しっかり泣かせてあげるよ」

 いつも温和な笑みを浮かべて、誰からも信頼されて。容姿も実力も文句なし。けれど、その仮面の下は冷酷で、冷淡で、けっして誰かに気を許すことなんてしない。

 いつだって人を、私を見下したような目で見る掴めない男。

 彼と知り合ってかれこれ十年になるのに、いまだに私は彼の本音を知ることはない。教えてももらえない。

 ただ知ってるのは、私が彼のことを嫌いだと思っているように、彼も私のことが嫌いだ。それなら、この状況はなんなのか。

 突き詰めて考えることを放棄する。もういい、今はこの快楽の波に溺れてしまおう。

 余裕のなさそうな彼の顔をそっと視界に捉える。涼しげな表情を崩すことなんてほとんどなくて、体温なんてないとさえ思っていた。

 けれど私に触れる手は、密着する肌は、こんなにも熱い。すがりつくように首に腕を回すと、当然のように口づけてくれる。

 嫌いなら、泣かせたいなら、もっと乱暴にすればいいのに。こんなふうに大事に扱われると、どうしていいのかわからなくなる。

 態度も、気持ちも、落ち着かなくて。絡まって、空回って自分が見えなくなってくる。

 どうしたらいいの? こういうとき、ほかの女性だったらどういう態度を取るの? その疑問を口にする余裕なんて今の私にはなかった。
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