クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「な、なん、で。どこでそれをっ!?」

「いやぁ、いいセンスだよね。お似合いだと思うよ? “彼”が待ってたから、飲み会のときも焦ってたわけだ。真面目だよね」

 恥ずかしさと、どこで知ったのかという不安もあり、彼の言葉に私は泣きたくなる。そして飲み会のときに彼に見栄を張って言った発言も持ちだされ、ばつの悪さこのうえない。

 一馬にさえ名前は言ったことがないのに。小学生のときに黒い子猫を拾って、親に無理を言って実家で飼い始めた。

 私の猫だから、という思いが強くて、今では絶対につけないような名前をつけ、大学進学でひとり暮らしをすることになったときも連れてくるのは前提だった。

 おかげで、ペット可のアパートを探すのに苦労して、家賃もやや高めなのがつらいところだけれど、そのためにバイトもしているわけだし。

 不信感溢れる瞳で彼をじっと見つめると、桐生くんも立ち上がった。身構えたままでいる私に、彼はゆっくりと近寄って来る。

「俺は自分の名字の方が嫌いだけどね。嫌でもいろいろなものが付きまとう」

 苦々しい口調で意外な告白。そこで改めて思い直した。彼は自分のことを『御曹司サマ』だなんて言ってたけれど、きっとすべて自分が望んだことでもない。

 裏表が激しすぎて、驚きと嫌な気持ちしか湧かなかったけれど、彼なりにそうせざるを得ないところもあったのかもしれない。

 私だって彼個人のことを知る前に、彼を取り巻く事情などが先に伝わってきて、あまり近づきたくないと思っていた。

 勝手なイメージを押し付けられるつらさを私だって知っていたはずなのに。
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