クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「送ってくれなくていいのに」

「毎回、そのセリフ。たまにはもっと面白い話題を振ってみろよ」

 車を運転しているのもあり、こちらを見向きもせずに返ってきた言葉に押し黙って、私は助手席のシートに体を預けた。

 「毎回、そのセリフ」なのは幹弥の方だ。私が泊まることなんてないのを知っているし、その理由だって彼には心当たりがある。

 本気で泊まって欲しいわけでもないのに、いつも同じことを聞いてくる。

 十一月も後半に差しかかり、すっかり季節は秋から冬に移り変わっている。幹弥と再会したのはまだ残暑厳しい九月下旬だった。そして、こうしてふたりで会って体を重ねるようになったのは、一ヶ月ほど前の話。

 会うのはいつも彼のマンション。私はけっして彼の家に泊まらない。そして彼は基本的に毎回こうして自ら私を送ってくれる。

 お酒を飲んでいるときはマンションの専属コンシェルジュに伝えて、必ずタクシーを用意してくれるし。

 そこまでの距離でもないし、歩いても平気なのに。この辺はそこまで治安も悪くないし、人通りだってある。

 それなのに彼は送っていくことを譲らない。こういうところは律儀というか真面目というか。思えば、昔からそうだった。

 大学の頃から住み続けているアパートが見えてくる。どちらかといえばマンションのような造りで、下は単身用の1LDK、上はファミリー用に3LDKの間取りだ。ここの二階の角部屋を私は借りている。
< 7 / 129 >

この作品をシェア

pagetop