クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 けれど、逆にそういうのが鬱陶しくて私に言ってきてるのかもしれない。それともただ、私の仕事を増やしたいだけなのか。

「悪かったって」

 黙ったままの私に幹弥が軽く謝ってくる。けれど、その表情はどう見ても申し訳なさそうな感じがしない。

「じゃぁ、次は地声で喋れば?」

「受講生二百人以上相手に? 喉が潰れるって。冗談じゃないね」

 私は軽くため息をついた。

「……また確認しておきます。だから次もどうぞよろしくお願いしますね、桐生先生」

 慇懃無礼に告げて、車のドアを開けようとした。わずかな隙間から外の冷たい空気が一気に流れ込んでくる。そのとき右腕が引かれ、驚く間もなく唇が重ねられる。

「頼んだよ、片岡さん。……じゃぁ、彼によろしく」

 右手が離され、私はこれでもかというくらい顔をしかめた。結局、そのままなにも返さず、車を降りる。

 本当はこの寒さならお風呂に入りたいところだけど、時間も時間だし、シャワーだけにして、さっさと寝よう。

「……ただいま」

 玄関のドアを開けて、私はいつものように告げた。シンとした廊下に自分の声が響く。今日も、今週も疲れた。明日は土曜日だから、ゆっくり休もう。
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