運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
あきらめの滲んだその声を聞くと、藍澤先生は最後にちゅう、と私の唾液を吸い上げてから、ようやくキスを止めた。
夢心地でぼんやりしていた私も、なんとか現実の世界に意識を戻す。
あ、危なかった……完全に魂奪われちゃってたよ……。
両手で頬を挟み今さら照れまくる私とは対照的に、藍澤先生はまるでヴァンパイアが生き血を吸った後のように満足げな笑みを浮かべて、濡れた口元をぐいと指で拭った。
「これでわかった? 俺たちを引き裂くなんて無理だって」
「……ええ。しかしこんなことまでするとは、やはり悪魔の役が似合うのはあなたの方です」
「そりゃあね。美琴ちゃんを傷つけた奴らの前では、悪魔にもなるさ」
最後の発言だけは語気が強く、ずっと飄々としていた彼の中にも底知れぬ怒りがあったことが垣間見え、胸がトクンと鳴った。
藍澤先生が怒ったところは今まで見たことがないし、たぶん元からあまり怒らないタイプなんだと思う。そんな彼が、私のことでムキになってくれたんだと思うと、こんな時に不謹慎だけど幸せを感じた。
「では、僕はこれで。お幸せに……と言えるほど心は広くないですが、今後お二人の邪魔をするようなことは致しませんので、ご安心を」
最後に寂しげな微笑みを残し、工藤さんが去っていく。ひとり取り残された蘭子さんは、ワナワナ震えて悔しさに顔を赤らめた。