運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
その日の夜、私は初めて藍澤先生の自宅マンションにお邪魔した。
病院から徒歩圏内にある二十五階建てのタワーマンションで、施設もサービスも充実しているらしいけれど、本人いわく病院に寝泊まりすることも多いから、あまりこだわりはないらしい。
その言葉通り、通された十八階の部屋は生活感が全くなく、モデルルームのようにシンプルで綺麗だ。
感心しながら広々としたリビングダイニングを通って、私はキッチンを覗いた。
「まったく使ってない……って感じですね」
お洒落なアイランドキッチン。そのふちを何気なく手で撫でながら、苦笑する。
汚れやすいはずの水回りやIHヒーターもピカピカ。料理、しないんだろうなぁ。
「うーん……お湯を沸かすくらいかな。けっこう食生活は乱れてるかも」
「まさに医者の不養生ですね」
「うん。だから、新妻の手料理楽しみにしてるよ?」
楽し気に言った彼が、私を後ろからふわっと抱きしめた。
に、にーづま……。彼の部屋のキッチンという場所でそんなことを言われると、結婚のことが急に現実味を帯びてくる。
今日は外で食事を済ませてきたけれど、そのうち藍澤先生のためにキッチンに立つようになるんだ……。想像すると何だかくすぐったいな。そんなことを思っていると、彼の方も似たような思いを巡らせていたようで。