運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~


「さすがは、白衣の悪魔ね」


ひとつ、ため息をついて、北条先生がこちらを振り返った。その瞳は少し潤んでいて、まずいことを言ってしまったかと不安になる。


「だって簡単に死なせてくれないんだもの。……胸の傷も、あなたがキレイに縫合してくれたせいで、すっかり痛みもない。こんな健康な状態に戻ってしまったら、いやでも生きるしかないじゃない」


軽く睨まれながら皮肉っぽく言われて、俺はさらに慌てた。彼女を救ったつもりが、“余計なお世話だった”と責められているような気がしたのだ。


「北条先生……“いやでも”なんてそんな……」

「……ありがとう。感謝してるのよ。私にできることも、まだあるのかもしれない。あなたがここに来る前、院長が来てね。私に新しくできた病院を紹介してくれたの。内科医が不足してるから、きみを欲しがっているって。……私、そこに行くつもりよ」


先ほどまでの卑屈な様子から一転、彼女の目は未来を見据えて輝きを取り戻していた。

叶わぬ恋と知りながらも、思い続けていた相手から背中を押されたことで、彼女も新しい人生を歩む踏ん切りがついたのかもしれない。

それにしても、まさか彼女から“ありがとう”と言われる日が来るとは……嬉しい反面少し驚いた。

副院長の椅子を奪ってしまった件で、煙たがられているんだとばかり思っていたから……。


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