運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「……ふうん。それで、辞めるのか」
ニュースキャスターのような、抑揚のない喋り方。それが時任の通常運転である。
「……かも、しれない」
「お前を必要としている患者は、まだ多くいるだろう」
「そうだけど……でもそれはこの病院に限ったことじゃないだろ?」
この高齢化社会だ。どこへ行こうと医師は不足しているし、患者は溢れている。俺は時任にも同意を求めたが、彼の反応は意外なものだった。
「俺は反対だぞ。今辞めたら、“悪魔”の噂に負けて、尻尾を巻いて逃げたと思われる。お前を煙たがってる奴らの思うツボだ」
「時任……」
……そんな怖い顔して、俺の味方してくれるんだ。わかりにくい男だけど、やっぱりお前はいい奴だよ。
彼の情がありがたいのと同時に、その反面今の病院をやめる方向へと心は傾いた。
どこへ行っても、時任のように俺のことをちゃんと見ていてくれる人はきっといる。それなら仕事のしやすい方へ移る方が、むしろ賢い選択かもしれない。
「ありがとな。そう言ってくれるのは、時任だけだ。……とりあえず、神鳥記念病院の院長に会ってみるよ」
「……そうか」
時任は俺を引き留められなかったことが無念そうだったが、それ以上は何も言わず、無表情なサイボーグに戻ると再びパソコンに向き直った。