運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「ねえ、最後にあれに乗ろうよ」
その先にあったのは、この街に欠かせない乗り物である、ゴンドラ。
そういえば、今日のデートでは一度も乗っていなかったし、夕暮れのベネチアを水上から眺めるのも素敵かもしれない。
私は快く頷き、天河さんにエスコートされながらゴンドラ乗り場へ向かう。桟橋に降りると、可愛らしい小舟にふたり寄り添って座った。
私たちのゴンドラを漕いでくれるのは、気さくそうな中年男性のゴンドリエーレ。ふさふさの口ひげがよく似合い、優雅なオールさばきでゆったりとゴンドラを動かしてくれる。
「どこに向かうんですか?」
「ん? それは秘密」
天河さんは意味ありげに微笑んで、口元に人差し指を立てた。
行き先くらい、教えてくれたっていいのに……。なんとなく拗ねたような気分になってそっぽを向いていると、急にぐいっと肩を抱かれてよりお互いの体が密着する体勢になった。
「寒くない?」
「へ、平気です……」
本当のことを言うと、さっきまではちょっと寒かった。
三月のベネチアの気温は東京とほぼ同じかちょっと低いくらいだから、夕方になって肌寒さを感じていたんだけど……今はこの状況のせいで、むしろ暑いくらいだ。