運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~


そう言われても、気にしちゃうよ……。香水でもつければよかった。

落ち着きなく自分の両腕を持ち上げ匂いを嗅ぐ私に、藍澤先生はやれやれとため息をこぼした。かと思えば、急に彼の顔が接近してきて、今度は耳元でくんくん鼻を鳴らした。

な、なに? いったいどこの匂いを嗅いで……。


「大丈夫だよ。むしろ……お酒の香りと美琴ちゃんのフェロモンとが混じって、男としてはたまらなくそそられるから」


母に聞こえない程度の小声で、そんな甘美なことを囁く彼。一瞬にしてぶわっと全身に熱が広がり、頭から湯気が出そうになった。

フェロモン……って、それ惜しげもなく分泌しまくってるの、いつもあなたの方でしょ!

内心そんな突っ込みを入れていると、スッと身体を離した彼が、今度はまた猫かぶりの優等生的な笑顔を作った。


「でも、一番心配なのは美琴ちゃん体調だよ。気分が悪くなったらすぐに言って?」

「は、はい……」

「藍澤先生が一緒なら大丈夫よね、美琴」


いや、そっちの方が何されるかわかったもんじゃないけど……。

無言でそんなことを思う私だけど、母も藍澤先生もいつも通り、私の言葉なんか待たずに勝手に話を進める。


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