運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
軽く咳払いをしてから、セクシーな垂れ目がちらりと私を一瞥した。それからすぐ前方に向き直った彼は、言葉を選んで話し出す。
「美琴ちゃんと結婚したら、俺は神鳥記念病院の副院長になって、将来的には院長になる。きみのお父さんとそう約束しているのは確かだよ。きみは一人っ子だし、医者になって病院を継ぐ意思もない。だから、院長は娘の結婚相手にそれを望んでいるみたいなんだ」
「やっぱり……」
私と結婚すれば、藍澤先生は院長の椅子が確約されるし、父は後継者を得て、万々歳。あとは私が素直に「うん」と言えば、表面上はハッピーエンドなわけだ。
「結局、政略結婚じゃないですか……」
私は全然ハッピーじゃないため息をこぼし、不満げに呟いた。
「まぁ、俺たちの結婚に多少仕事上の思惑が絡んでいるのは否定しないよ。でも、前にも言った通り、美琴ちゃんに運命を感じたのも嘘じゃない」
「また都合のいいことを……」
もう、悪魔のちらつかせるエサには引っかからない。まともに取り合うだけ無駄だ。
「運命的政略結婚」
「え?」
急に藍澤先生が放った耳慣れない単語に、眉根を寄せて運転席の方を見る。
運命的……政略結婚って言った? なんなのその矛盾だらけの造語は……。