運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「いや、私たち別に……普通に、お風呂に入りに来ただけですから」
そもそも、まだ夫婦じゃないし。
「……そうか、貸切風呂なんてものがあったのか。美琴ちゃん、次回はもっと早く予約して、甘い時間を堪能しよう」
「ひっ、人前でそう言うこと言わないでください!」
「そう? じゃあ二人きりになったら、もっと際どいことたくさん囁いてあげる」
「結構です!」
もう、藍澤先生ってば、いつもより調子に乗ってない……?
からかわれて不機嫌になる私だけど、二人のやり取りを聞いていた女将は、微笑ましそうにくすくす笑う。
「とっても仲が良いんですね」
「ええ。特に僕の方がベタ惚れでして」
「いいわねえ。あ、お風呂は取れませんでしたけど、お部屋は離れをご用意できましたから、思う存分奥様を可愛がれますよ」
「それはありがたい。気の利く女将さんでよかった」
「おほめに預かり恐縮です」
じょ、冗談だよね……? 藍澤先生、女将さんのノリに合わせてるだけだよね?
二人の会話に一抹の不安を覚えながら、渡り廊下を通って離れに到着した。