運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
山翡翠には何度か宿泊したことがあったけれど、離れに来るのは初めて。
小ぢんまりとした茶室のような感じを想像していたけれど、実際は予想以上に広々とした部屋だった。
畳敷きの和室には旅館らしいテーブルと座椅子のセットがあり、障子で仕切れるようになっている隣の部屋には、モダンなベッドがふたつ並んでいる。
そして庭に面した大きな窓からは、手入れの行き届いた美しい日本庭園をのぞむことができるけれど……。
「これで、天気が良ければなぁ」
窓に歩み寄った私は、灰色の空を見上げてがっかりと肩を落とした。
「そうだね。でも、静かな部屋で雨の音を聞くのもまた風情があっていいよ。部屋の中からでも、庭の木の葉から落ちる雫を見ているだけで、なんだか心が休まる気がするし」
「……さすが、大人ですね」
私の隣に並んで、落ち着いた笑みを浮かべる藍澤先生に素直に感心する。
……雨を楽しむなんて、考えもしなかったな。そう言われてみれば、しとしとと降り注ぐ雨の音も、それに合わせて揺れる庭園の緑も、どこか趣があるかも。
あっさり感化されて真面目に庭を見つめる私だけど、隣の藍澤先生は悪戯っぽく口角を上げてひとこと。