運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
「美琴ちゃんも、もう大人でしょ?」
そう言って私の腰をぐっと抱き、獲物を射るように瞳を細めて私を見つめた。
お、大人って……藍澤先生の口から出ると、ハレンチな意味にしか聞こえない。やっぱりさっき女将と盛り上がっていた話って、冗談じゃなかった?
一気に緊張が高まって内心冷や汗をかいていると、背後で呆れたようなうれしそうな、女将の声がした。
「あらまあ、本当にお熱いことで。では、邪魔者はこれで退散しますね。ごゆっくりどうぞ」
「えっ。ちょっと、まだ、行かないでくださ――」
くるりと振り返って女将を呼び止めたけど、私の縋るような声はぴしゃりと閉まったふすまに阻まれてしまった。
や、やばい……。この後、どうすれば……。考えても答えは出ず、不自然に部屋の中を向いて固まる私。
すると、静かに歩み寄ってきた藍澤先生が、背中からぎゅっと私を抱きしめた。
「あーあ。こんな密室で、悪魔と二人きりになっちゃった、ね」
耳元で意味深に囁かれ、頭の中で危険を知らせるサイレンが鳴り響いた。
この人、やっぱり私を食べる気だ……っ! 逃げなさい! 美琴! このままじゃ悪魔の餌食よ!