運命的政略結婚~白衣の悪魔に魅入られて~
とりあえず平静を装わなきゃ、と自分に言い聞かせながら、私は彼に提案する。
「あ、あの……お風呂、行きません? 濡れた体、あっためないと」
「うん、行くけど……もうちょっと、二人きりになれた喜びを堪能させて? 月曜以来、美琴ちゃんに触れられなくて、つらかったんだから」
変わらず耳元にある唇が、少し甘えたような声で囁いた。思わずドキドキしてしまうけど、軽く笑って言い返す。
「月曜って……まだ、一週間たってないじゃないですか」
「それでも、きみに会いたかった」
「……嘘です」
「嘘だと思うなら、俺の心臓の音を聞いて」
「えっ?」と声を上げるや否や、強引に彼の方を向かされて、後頭部を大きな手に引き寄せられると彼の胸に当てられた。
耳に感じる彼の鼓動は……私のそれと同じくらいか、ううん、それ以上に……。
「聞こえた?」
ほんの少し身体を離し、瞳をのぞき込まれる。
「……はい」
「これでも俺を悪魔だと思う?」
彼らしくない、切実な眼差しに、胸がきゅっと締め詰められる感覚がした。
私は一瞬答えに詰まって、けれど「わかりません」と小さくかぶりを振った。