過保護な御曹司とスイートライフ
「よっと」
しゃがみ込んだ状態から立ち上がると、バランスを崩し慶介さんの胸に突っ込んでしまう。結構勢いよくぶつかってしまったから慌てて離れようとしたのだけど……。
背中に回った腕にそれを止められた。
「実はさ、動画撮ってたとか嘘なんだよね」
「……え」
「だって、あんな怖がってる鈴村さん見て呑気に動画なんて撮ってられないでしょ。でも、言い逃れされても困るからさ、とりあえずハッタリかましただけ」
そうだったのか……と思っていると。
「よしよし。怖かったね」
柔らかく抱き締めながら、ポンポンと背中を叩かれる。
まるで母親が子供にするような行為にキョトンとしてから、ふっと笑みがこぼれた。
これが、慶介さんの優しさだとわかったから。
柑橘系の香りがした。慶介さんがいつもつけている香水だ。
「大声出す男って最悪だよね。自分を大きく見せたいんだろうけど、それしか手段がないとか動物みたいだし。あんなのが同じ男としてカテゴリー分けされるなんて嫌だなぁ」
クスクス笑うと、慶介さんは「だって鈴村さんだってそう思うでしょ?」と聞く。
「でも、成宮さんが、慶介さんはすぐ手を出すからそのうち女性に刺されるって言ってました」
「それはさー、手を出すって言っても色気のある方だし。……まぁ、アッキーは真面目だからあんまり理解されないけど、うまいこと遊んでるから心配いらないよ。それに、女の子に刺されて死ねるなら本望」
「……本当に?」
「嘘です。そんなことになったら超後悔するわー。やっぱりもうちょっと真面目に生きようかな」
すぐに意見を変えた慶介さんに笑ってから……そっと口を開く。
「〝NR&T〟って慶介さんの会社だったんですね」
その時は混乱してていちいち考えている余裕がなかったけど、そういうことなんだろう。棚田さんが〝竹下副社長〟って呼んでいたし。
慶介さんは、まだ私の背中をポンポンと撫でながら答える。