過保護な御曹司とスイートライフ
「まぁね。本当はまだまだ会社継げるような人間じゃないんだけど。父親が〝何事も経験だ〟とか言って早々に俺に継がせたがって結構大変だよ。両親は〝悩め悩め〟って笑ってるけど俺からしたら毎日必死でさ」
「……そうだったんですね」
失礼ながら、ちっともそんな風には見えなかった。
軽い雰囲気や人柄から、適当にやっているものだとばかり思っていただけに、心の中でこっそり謝る。そんなに一生懸命だったのに申し訳なかった。
「あ。今、全然そう見えないって思った?」
ギクッとしながらも「いえ。まさか」とふるふると首を振ったけれど、慶介さんは信じていないようだった。
「もうさー、いっつもそうなんだよ。俺の努力とか必死さってまったく周りに伝わらなくて嫌になるよ。……まぁ、俺自身、大変なこととかあっても酒飲んで騒いで寝れば忘れちゃうけどね」
不貞腐れたように話し出したけのに最後はハハッと明るく笑う慶介さんに、私も笑みをこぼす。
「見習いたいです」
「じゃあ、今夜はアッキーと楽しく飲むといいよ。それで、あんなヤツに言われたこととか怖かったこととか全部忘れちゃいな」
最後、私を離し、ポンと頭を撫でた慶介さんに笑顔でお礼を言った。
「……あ。お疲れ様です」
仕事帰り、マンションまであと数百メートルって場所を歩いていたとき、車が横付けされた。黒いレクサスに、あれ?と思って立ち止まると、中からは予想通り成宮さんが降りてくる。
マンション前まで車で行ったってよかったのに、私を見つけたからわざわざここで降りてくれたんだということに、じわじわと嬉しさが胸に広がっていく。
十九時前の空は暗く、通り過ぎる車のヘッドライトが眩しい。
「お疲れ。慶介から聞いた。大丈夫か?」
すぐに持ち出された話題に驚く。
慶介さんは成宮さんに報告するとは言ってたけど、こんなに早く話がいくとは思わなかった。