過保護な御曹司とスイートライフ


「大丈夫です。ただ、慶介さんには迷惑をかけてしまって……忙しいのに申し訳なかったです」

私が歩き出すと、成宮さんも隣に並ぶ。

「いや、迷惑もなにもないだろ。危ない目に遭ってたって言うし、慶介も心配してた」
「そうですか……。あの、棚田さんにはなにか処分が下ったりするんでしょうか」

あまり掘り下げてほしくなくて、わざと話題を逸らした。
あんな風に震えたり泣いたりしてしまったことは情けないから言葉にされたくなかった。

「ああ。おまえが受付で話しているのを聞いてから、コンプライアンス課にきている報告を見直させたら、棚田の名前が数件あがってたんだ。今までのも棚田の直属の上司には話してあるし棚田自身へも注意しているって話だった。そこにきての今回のことだからな。さすがに注意するだけとはいかないだろうな」

「……そうですか」

マンションの敷地内を歩きながら、成宮さんが話す。

「棚田に不快感を持っている社員が何人もいる中で、棚田自身に改善しようという努力が見られないなら、いつまでも同じ空間で他の社員に我慢してもらうのはおかしい。
人事課長に、あくまでも俺の意見として伝えてきただけだから、実際どう判断されるかはまだわからないけど」

迷いのない声と横顔を見上げ、ホッとする。
今回のことは、言い返して棚田さんに火をつけてしまった私も悪いけれど、やっぱりこれからもずっと棚田さんが同じ社内にいるのは怖い。

それは、今まで嫌味を言われた女性社員みんなそうだろうから、副社長である成宮さんがこういう意見を持っていてくれているのなら安心だ。

マンションに入り、エレベーターに乗り込む。

柔らかいオレンジ色の照明が照らす、エレベーター内。階数ボタンを押そうと手をあげたところで、横から伸びてきた手に上から握られた。

なにかと思って隣を見上げると、じっと私を見つめる成宮さんがいて驚く。
わずかに不機嫌そうに見える目元がいつもとは違い、どうしたんだろうと疑問に思っていると、一定時間を越えたからかエレベーターの扉が勝手に閉まった。



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