過保護な御曹司とスイートライフ

「日に日にプレッシャーがデカくなっていって、この会議室で、知らない社員相手に愚痴がこぼれた。〝ずっと働き続ける未来しかなくて、たまに嫌になる〟って。そしたら、缶とか片付けてたその社員が……鈴村が手を止めて俺を見たんだけどさ。そん時の目があまりに切実だったから今でも覚えてる」

微笑まれ「あ……」と声をもらすと、「思い出した?」と聞かれる。

……思い出した。たしかにそんなことがあったかもしれない。
あの時、私はなんて答えたっけ……と考えていると、成宮さんがその答えを口にする。

「〝素敵な未来じゃないですか〟って言ったあと、鈴村は〝私の未来は真っ暗でなにも見えません〟って」
「……大変失礼しました」

恐らく、辰巳さんとの結婚を前にした私の本心だったんだろうけれど、あまりに自分勝手な言い分だと思い謝ると、成宮さんは首を振る。

「鈴村、そん時もすぐにハッとした顔してその発言自体を冗談に変えてた。〝実は受付には魔物が住んでいて社員の未来を暗く塗りつぶしちゃうんです〟って……そういえば、あの時に言ってた〝魔物〟ってなに? まだ受付にいるのか?」

不思議そうに聞かれ、答えに迷う。
矢田さんと私の間でしか通じないような事だしなぁ……と思いながらも「たまに顔を出しに来ますね」と答えると、「おまえ、真顔でそういうこと言うなよ」とおかしそうに笑われてしまった。

さっきとは違う、明るい笑顔に、ああ成宮さんだ、とホッとする。
やっぱりこの人には、矢田さんが言っていたような純粋な笑顔がよく似合うと考えていると、成宮さんはまだ笑みの残る顔で私を見た。



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