過保護な御曹司とスイートライフ
「ここに配属になったのは先週からでも、それ以前も会議の出席とかで何度も来てるから。って言っても、俺は社員用入口から出入りするから鈴村が顔を覚えていなくても当然だけど。……いい加減、頭上げてくれると俺も助かるんだけど」
迷ったあと、ゆっくりと顔を上げると、成宮さんはホッとしたような笑顔で続ける。
「俺が鈴村の顔を覚えてたのは、前、片付けのときにこんな風に顔を合わせたことがあったからだ。ひとりで残って資料読み返してたら鈴村が入ってきて、そのとき、少し話した」
「……話、ですか?」
いくら頭の中を掘り起こしてみても記憶にない。
「まぁ、早い話が……ちょっと愚痴ったんだよ。俺が」と、ヒントのようなものを出されても思い出せずにいると、成宮さんは自嘲するような笑みをこぼした。
いつもカラッと笑う人が、こんな風に影の落ちた笑みを浮かべるなんて珍しいなと思う。
差し込む日差しを背中に受けた成宮さんが口を開く。
「俺が本社に配属になる話は最初から決まってた。その時期がどんどん迫ってきてんのも、ひしひし感じてた。プレッシャー……なんだろうな。現場とかで必死に働いている先輩を、俺なんかが追い抜いて、立場的には上になるってことが重たくて仕方なく感じてたんだ」
目を伏せた成宮さんに、さっき矢田さんから聞いたことを思い出す。
六年間、現場や研究所で働いていたって話だった。っていうことは、それだけ現場の社員の頑張りを知っているってことになる。
そういった人たちを目の当たりにして働いているうちに、遠くない未来、現場で働くすべての人、そしてその家族を背負う責任を自分が負う……と意識したということだろうか。
たしかに、その重圧はすごそうだな、と考え言葉がかけられずにいると、成宮さんが続ける。