ロング・バケーション
「どうしました?」


彼もジャーキーをあげてみたいのかなと思い、あげますか?と差し出した。


「そうじゃないよ」


私の手からダックスを奪うと、また少し寄ってくる。
これまでで一番近づいてきた彼に、胸がドキンと弾んだ。


「先生…」


「じゃなくて」


否定する顔がやけに真剣だから戸惑う。
昨夜みたいに名前や苗字で呼べと言うのか。


「野々宮さん…じゃなくて……凛」


ドクン、と胸が音を立てたように思った。
誰の心臓の音!?と慌てたが、紛れもなく自分の胸が鳴っている。


「………」


声も失くして目を見ていると、微笑んだドクターの目元が細く変わった。


「名前呼んだだけで言葉失うとか、益々ギャップを感じるな」


子犬並みに可愛いと言われる。
子犬並みと言うところに少し引っ掛かるものを感じたが。


とにかくじっと見つめられてるのも恥ずかしいからそっぽを向いた。
耳朶が熱いな…とそれとなく隠すように肘を曲げると__


「そう言えば服装もギャップなんだよね」


そう言うとドクターは私の方に向き直り、目線を足元から頭まで眺めるように動かす。


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