嫌われ者の怪物と空っぽの少女
「……お、おばあさー…ん」
外は相変わらず静かだった。
おばあさんの反応がない。体を少し屈めて、木の枝を前に突き出して、さらに奥へと進む
ただ、風で葉が擦れる音だけが森に響いていた
ずっと遠くからは、微かに蝉の鳴き声もする。
「……っ大丈夫…大丈夫…」
少し進むと、見慣れた服と、白色の髪のおばあさんが、横になっていた。
「……お、おばあさん…?そこでなにしてるの…?」
マユが少し違和感を覚えながら、ゆっくりと近寄る。
「……っ!?…」
おばあさんに近寄ると、足から、真っ赤な血が流れていた
「おばあさん!?大丈夫?…血が……大変!今すぐお医者様を…!」
こんなことは初めてだった。でも、マユは絵本で、怪我をした時はお医者様を呼ぶ、という事は学習していた。
なんとか意識はあるようだが、おばあさんの顔は真っ白で、今にでも息が途切れてしまいそうだった。
「マ……ユ…お医者…様は……いいの…街へは…行かないで……」
「なんで!?なんでよ!お医者様を呼ばないと!おばあさんが…!」
おばあさんの目には、微かに涙の雫があった。
「マ……ユ…お願…い」
マユには、それが理解出来なかった。
「……っ!だめよ…お医者様を…呼ぶわ。街へ行く。」
マユは、怒りのような、悲しみのようなの顔を浮かべ、街へと掛けていった
「あぁ……神……様…どうか……どうか……マ…ユ…だけは……」
うっすらと、ゆっくりと、でも確かに消えていく意識に、おばあさんは、微かに恐怖心を覚えた。
でもそれより、マユのことが心配で仕方なかった。
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「っはぁ…はぁ……」
なれない足取りで、見慣れない古びたの街の中を駆ける
こんなことなら体力を付けておけばよかったと後悔しながら、どこにいるかわからないお医者を探しながら走った
でも、その足は大きな男の人によって止められた。
「……!?お、お嬢ちゃん、どうしたんだい…?お名前は…?」
マユの前に現れたのは、綺麗なブレスレットをした、短髪のお兄さんだった
「お兄さん!!助けて!おばあさんが!!足から血を流して倒れているの!」
マユは必死で助けを求めた
お兄さんは、なにか企んでいるような、怯えているような、そんな表情をしていた。目は虚ろだった。
「おばあさん…?ほ、ほら、一旦落ち着いて。深呼吸して」
「そっそうね…落ち着け…すー……はー……」
マユは話した。森でおばあさんが倒れていること。今すぐお医者様を呼びたいこと。
そして、自分の名前がマユだと言うこと。おばあさんの名前が、ミサだと言うこと。
街からは出てはいけないと言われていたけど、出てきた事。
するとお兄さんは真っ青な顔をして、どこかに連絡を始めた。
「……っマ、マユちゃん…お医者様を呼ぶから、おばあさんの元へ連れてってくれるかい…?」
「…!!えぇ!もちろんよ!ありがとう…ありがとう……」
マユは、嬉しさと安堵で、涙を流した。
「……」
「あぁ、来たね。」
しばらくして、荒れた地をふむ、硬い顔をした数十人というたくさんの人達が、遠くから歩いてきた。
マユは、なぜか恐怖心を覚えた。