溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 仕立てのいいスーツを着こなす姿は何度も見ても素敵だと思ってしまう。さらに姿勢がいいからかより凛々しく頼もしい見える。

「じゃあ、椿、あとで」

「はい! 行ってらっしゃい」

「うん」

 軽く手を上げ、カバンを持って颯爽と歩いていく姿にまたしても見惚れる。

(あの人がわたしのカレシだなんて、信じられない。あ、でも、早く思い出さないと嫌われちゃうかもしれない。そんなことになったら大変!)

 食洗器のスタートボタンを押し、自室に行って化粧を始める。若干時間に余裕があるものの、はじめてのルートなので余裕を持って出ることにした。

 とはいえ、やはりなんの問題も起きることなく到着したので、先に社食に寄ってランチを購入して秘書室に向かう。すでに仕事を始めている真壁にコーヒーを淹れて出すと、椿の仕事が始まった。

 今日からが事実上の本番だ。一週間、しっかりやらないといけない。

 朝も昼も慌ただしいが特段トラブルもなく順調に過ぎていった。四時過ぎに真壁が取引先との打ち合わせで外出し、今日はもう戻ってこないとなってからは一人で資料の整理をするだけなのでのどかな時間になった。一時間ばかりやり過ごせばいいだけだ。

 椿は山瀬からもらった取引先のリストを取り出し、一から確認を始めた。まだ完全に覚えきっていないからだ。社名と担当者名とその会社の社長名。大きな取引先なら所在地も。十や二十ならまだしも、百以上もあるのでなかなかすべてが一致しない。それでもこれが仕事なのだから弱音など吐いていられない。山瀬はやっていたのだから。

 前の秘書はやっていたのに、今度の秘書はダメだな――などとは言われたくはない。ならば時間が許す限り何度も何度も復習するしかない。

(暗記ものは不得意ではないんだけど・・でも試験のための単語じゃないから)

 誰もいないことをいいことに、ブツブツとつぶやいていると内線が鳴った。

「はい、秘書室、雪代でございます」

『タクミ、います?』

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