溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「え?」

『タクミよ。タクミ、マカベ。社長の』

 驚く言葉がいきなり耳に響いて椿は絶句した。

 アポもなく訪れていることも驚くが、真壁をファーストネームで呼び捨てにするとは。

「あ、えっと、どちらさまでしょうか?」

『マリ・コールドマンよ。そう言ってもらえばわかるわ』

 外国人名に少しほっとした。それならばファストネームを呼び捨てにしてもおかしくない。

「コールドマンさま。申し訳ございせんが、真壁は現在、外出しておりまして本日はもう戻ってまいりません。それにアポをいただいておりませんと、面談の時間が取れないものでして」

『アポなんて不要よ。仕事が終わってから会うんだから。五時まであとちょっとだからここで待っていようと思ったのだけど。そう、やっぱりいないの』

「申し訳ございません」

 言いつつ、言葉に引っかかる。

(やっぱり?)

 ということは、すでに真壁と話をしているということだ。そして外出を理由に断られている。

 これであきらめて帰るかと思いきや、マリ・コールドマンと名乗る女はまだ続けた。

『あなた、新しいセクレタリー? 名前が違うわ』

「はい、雪代と申しますが」

『そう、お会いしたいわ。そっちに行ってもいいかしら?』

「・・わたくしに、ですか?」

『悪い?』

 なんだか嫌な予感がするが、ここでダメだとは言えない。大事な取引先なら大変なことになる。頭の端では「外国人の担当者、しかも女性なんてリストにはないはず」と思ったが、確認する間がない。

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