溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「恐縮ですので、わたくしがそちらへ参ります。少々お待ちください」

『そう? でもお話はそっちでしたいわ。だってここ、なんだか慌ただしいんだもん』

 確かに外出していたスタッフが戻ってくる時間ではある。残業をしないようにグループ会社一丸で押し進めているので、事務作業をするためにこの時間に戻ってくる者が多いのだ。

「応接室にご案内いたしますので、ソファにお掛けになってお待ちいただきたいと存じます。」

『わかったわ、待ってる。お願いね』

 プツンを電話が切れた。

 イヤな感じがますます膨れ上がるが仕方がない。椿は秘書室を出てラクビズのエントランスへ向かった。

 ラクビズでは受付スタッフは置いていず、カウンターに内線一覧表と電話機を置いているだけだ。その周囲にはソファがあって、客はそのソファに座って担当者が来るのを待つというものだ。椿が行くと、ビックリするぐらいの美女が座っていた。さらに椿を見てさっと立ち上がった時のスタイルのよさに言葉を失う。完全な西洋人とは少し違う、エキゾチックさを含んだ華やかで麗しさを備えた美しさだ。

「コールドマンさまでございますね?」

「えぇ、そうよ。はじめまして、ユキシロさん」

「はじめまして、雪代でございます。真壁の秘書を務めております。こちらへどうぞ」

 あまりの美しさに心臓は痛いほど激しく打っている。聞こえてしまいそうでますます焦る。

 社長室に隣接している応接室に通すと、マリと名乗った美貌の女はソファに腰を下ろした。

「あっ」

「え? なに?」

「いえ、なんでもございません。お茶をお持ちいたします」

「いらないわ。タクミが戻らないのだったら長居する気はないから」

「かしこまりした」

 答えつつ、椿は迷った。マリが座ったのソファは下座で、本来なら椿が座る場所だったからだ。外国人のマリが日本のビジネスマナーを知らなくても不思議ではないし、知らないほうが自然に思える。それを伝えて場所を変わってもらうのも逆に面倒をかけるかもしれない。ヘタをしたら窘めたとして不興を買うかもしれない。

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