溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
「どうしたの? 座ってちょうだいよ」

「はい、では、失礼いたします」

 椿が座ると同時にマリは話を始めた。

「しばらく日本に滞在することにしたの。とりあえず、半年くらい。その間、タクミの家にお邪魔しようと思っていたのだけど、ダメだって返されちゃってね。電話しても忙しいからってまともに話も聞いてくれないし。それで会社に押しかけちゃったわけ。ひどいと思わない? フィアンセにこんな仕打ちって。あなた、なにか知らない?」

 椿が目を見張っているのを気にする様子もなく、マリは困ったと言いたげに大きなため息をついた。

「私としてはそろそろ結婚の話を詰めたいのに、ぜんぜん来てくれないし。グランパもしびれを切らせているわ」

「お祖父さま、といことはご家族でそういうお話に?」

 マリは「えぇ」と屈託なく答えた。整った美麗な顔にはそれに相応しい笑みだ。

「あなた、えっと、名前聞いていなかったわね。ユキシロ、なんていうの?」

「・・椿、ですが」

「ツバキね。ツバキは私のこと聞いてないの?」

「はい」

「そうなんだ。大事な関係なのに、タクミったら話していないなんて。グランパはバックフィードマートの創業者で、日本で言うところの名誉会長って感じ。今はパパがCEOをしているわ」

 バックフィードマートなら日本人であっても知っているアメリカの巨大流通会社だ。マリはそこのお嬢さま、ということか。であれば二人の結婚は両家に大きな利となるものだろう。アメリカの大手流通会社と日本の一流商社系ホールディングスが婚姻関係によってガッチリと手を結ぶのだから。

(そんな・・)

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