溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 思わずぎょっとなってマリを凝視する。そんなことを言われたら大変だ。この会社は申請しないと残業はできないし、マリと食事をしたくないから嘘をついたと思われては困る。とはいえ今さら、実は他に予定があります、とも言えない。

(ヤだ、どうしようっ)

 焦る椿を急き立てるように終業のメロディが流れ始めた。

「これ、今日の仕事は終わりって知らせよね? 廊下で待っているわ」

「あのっ」

 マリはさっと身を返し、応接室から出ていってしまった。

(え、え、え、困るっ)

 困ってもどうしようもなく、仕方なく社長室経由で秘書室に戻り、片付けを行って廊下に出た。ちらっと視界の端にマリを捉え、すぐに視線を戻してIDカードをセットしてキーをロックする。

「行きましょう」

「・・はい」

 なんだか警察官に連行されるような気分だ。どうしてこんなことになってしまったのか。

 しょぼんとしながらマリの後ろに続いた。

 姿勢よく立ち、十センチくらいありそうなピンヒールを履きこなしている。優雅な足さばきはまるっきりテレビで見るスーパーモデルのウォークだ。細い肢体、なのに腰はキュッと締まっている。そのくせバストは豊かだ。輝くブロンドに白い肌は同性の椿でさえ見惚れてしまう。そしてこの美女が真壁の隣に立てば、美男美女カップルとしてさぞや周囲の注目を浴びることだろう。

(似合っているよね。わたしなんかよりも、ずっと。どんなに頑張ったって、遠く及ばないわ)

 〝フィアンセ〟という言葉が鋭く胸を突く。
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