溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 本当なのだろうか? それとも彼女が勝手に言っているだけだろうか? だが家族ぐるみのつきあいで、みなが二人の結婚を望んでいるというなら――

(う・・)

 急になにかが突き上げてきて、視界が滲んだ。

(ダメ、こんなところで泣いたら。マリさんに、ヘンに思われる――)

 表立ってはただの上司と部下だ。しかもマリには椿がなにに対して悲しんでいるのかわからないから追求されてしまうだろう。そうは思うが、昨日、真壁から告白されて幸せの絶頂だったのに、一日も経ってもいなのにこの状況とは。

 なにが違うのか、どこがおかしいのか、さっぱりわからない。

 愛されているはず、そう思うのに、男はいくらでも女を口説き、関係を持ってしまうものだという気持ちもある。真壁は違うと思いたくても、そう思うだけの確信もなければ長いつきあいでもない。ずっと前から知っていると言われても椿に記憶がない以上、作り話である可能性だってあるのだ。いや、記憶がないからこそ騙されている可能性だってある。

(匠さん)

 優しいまなざしも、手のぬくもりも、唇の感触も、全部信じているはずなのに、たまらない不安がこみ上げてきて胸を焼く。

 フィアンセ――椿には手の届かない言葉。

(そんな・・だって、匠さん・・)

 好きだと、昨日そうはっきり言ってくれたのに――

< 117 / 186 >

この作品をシェア

pagetop