溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 マリはエレベーターを降りるとズンズン歩き、ビルを出てスマートフォンを見ながら方向を確認している。

 やっぱり、イヤ、行きたくない――その言葉が喉に詰まる。体は心と真逆に動く。

「ゆっくりショッピングするつもり。日本らしいものをたくさん買おうと思ってね。でもこっちに住むつもりだから、慣れたいってのもあるの」

「住む?」

「ええ。タクミはいずれシンウォールグループを継ぐのだから、USAには来られないもの。だったら私が日本で永住することになるわ」

「・・・・・・・」

「飛行機でひとっ飛びよ。近いものだわ。今回は半年間の一時的な訪日旅行だから航空会社を使ったけど、そのうち我が家のジェットで行き交いしたらいいんだしね」

 プライベートジェットで世界中を行き交いする富豪ファミリーなのだ。

(楓さんと二人っきりで質素に暮らしているわたしとは大違い。違いすぎて比べる気にさえならない。でもだからって、匠さんをあきらめろって言われても、ムリ・・)

 想像できるのは二つ。一つは真壁がマリの存在を知られて椿を捨てる道。もう一つは、これはマリが勝手に言っていることだと否定する道。

 前者だったらどうすることもできないが、後者だったら椿にも行動選択の余地がある。

 信じるか、信じないか。

 いや、違う。

 信じたい――

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