溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 言われて曖昧に微笑み、スマートフォンに視線を落とす。数字が並んでいる画面をなんとも言えない苦い気持ちで見つめた。

「ツバキはどこに住んでいるの?」

 ドキンと心臓が強く打つ。まだ板橋のワンルームマンションが契約期間中であることを脳裏で確認し、「板橋です」と答えた。

「そう。今度、遊びに行くわね」

「えぇっ」

「あら、ダメ?」

「ダメっていうか、ワンルームマンションなので、とても狭くてお客さんを招待できる場所じゃないんです」

「そうなの? 別にかまわないのに。でもツバキが困るなら行かないわ。じゃあ、ここに遊びに来て。ご足労願うのは申し訳ないけど」

 はぁ、とまたしても曖昧に返事をしてしまう。マリの強引な会話についていけず、かといって怒り心頭で席を立ちたくなるような感じでもなく、椿は本当に窮した。

 とはいえ、マリが言うように、人の魅力というのは否応なしに惹きつけてしまうのだろうか。マリが本当に真壁の婚約者であるのならムカムカしていいはずなのに、そんな気持ちも起こってこない。思うのは真壁に聞きて確認したいということだけ。

 もしも本当だったら、自分のことを知られたくない。このままいい印象を持ってもらって、週末の二日間と今朝のやり取りを自分の中から抹殺したい。

 と、一瞬思ったが――

(抹殺? 本当にそう思ってる?)

 椿は奥歯を噛みしめた。

 幸せの絶頂だったはずなのに、こんなに短い時間で終わってしまうなんて。

 本当に夢を見ていただけだったのかもしれない。

 それとも冗談だったのかも?

 あるいは――

   ***
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