溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 いなかったように思うが、記憶が判然としない。そんな話をした覚えもないので、なぜ一人っ子だと考えていたのかも思い出せない。

(わたし、匠さんのことが好きだけど、ただそれだけ。マリさんは両家とも家族ぐるみのつきあいだから比べ物にならないほど匠さんのこと知っているんだろうなぁ。留学時の、学生だった頃の匠さんとか)

 小さくため息を落とし、これからのことを憂える。本来なら二人はこれからゆっくり関係を深め、理解し合い、愛し合うものだろうが、椿にそれが許されているのかどうかがわからない。

 他人の大切な関係に亀裂を生じさせ、大きな問題を引き起こす存在なのではないか? そんなふうにさえ思えてくる。

 地下鉄に揺られ、最寄り駅で降りるとそのままスーパーに寄って夕食を買う。平日、真壁は忙しくて家で食事をしないので自分の分だけで充分だが、週末のために必要な食材を購入してマンションに帰ってきた。

 一人で食事をしつつ、マリがなにも言ってこなかったことを考える。なにかあったのかもしれない。それとも――

(バレた?)

 そう思うとゾクっと寒気を覚える。だったらなにも起こらないはずがない。

 考えれば考えるほどこわくなってくるので椿はもうマリのことは考えないでおこうと意識から追い出した。

(えーっと、えーっと、早くなにか考えなきゃ)

 他に考えることを決めないとまたマリのことで悩みそうだ。なにかないかと記憶を巡らせ、ふと真壁の電話のことを思い出した。

 ずいぶん親しげな、身内と話すような口調だった。

(あんなくだけた口調の匠さん、珍しい。でも、親にはないだろうし。それに思い出したけど匠さんってやっぱり一人っ子だった。確か、妹がいたはずだったけど、死産だったとかで、知った時、気の毒だなって思ったから間違いない。ってことは、あの電話はお友達なのかな)

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