溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 二人が家を出てから間もなく、椿は真壁に買ってもらった江戸切子のピンピールをリビングの大型チェストの上に据えた。それからゆりこおばさんからもらったシンデレラのガラスの靴もそこに飾ることにした。大小のピンヒールがそれぞれガラスケースに入っていて、並んで置かれている様子はなかなかのものだ。だが、それだけに、思い出せない自分が情けなくて、辛い。

 RRRRRR……

 スマートフォンが震えている。椿はダイニングテーブルに置いているスマートフォンを慌てて取った。画面にはマリの名前が表示されている。一瞬ドキンと心臓が跳ねたが、ここで無視することはできないと画面をフリックした。

「はい」

『ツバキ? 今、タクミ、帰ったわ』

 言われて時計を見ると、ここを出て十五分くらいが経っている。どこも寄らずに真っ直ぐホテルに向かい、マリを下ろしたのだろう。

『今回の件、横恋慕は私のほうみたいだから身を引くわ』

「え、あ、あの」

『でも、勘違いしないでね。私が引き下がるのはあなたが気の毒な身の上だからじゃないからね』

「・・・・え?」

 フンっと鼻息荒くマリが言う。だが、声には涙の影が感じられる。精いっぱい虚勢を張っているのが伝わってくる。

『同情なんかしていないし、私は男の人に守ってほしいとか思われたくないから。でも好きな人にずっと想っている人がいて、思い出してもらうのを待っているんだって言われたら太刀打ちできないじゃない。好きな人の幸せを願うのが好きになった者のもっともすべきことでしょ? 私の気持ちが報われるためにタクミが不幸になったら、そんなの意味ないから』

 次第に弱い口調になり、やがてその声が震え、涙声に変わった。

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