溺愛同棲~イケメン社長に一途に愛される毎日です~
 何気なく振り返ると真壁の姿がない。電話を切ったらかすかにバスルームのあたりで音がした。

(匠さん、お風呂に入ったんだ)

 同棲を始めて一週間。まだ一週間とも言えるし、あっという間だったようにも思う。いつマリが誘ってくるんだろうと半ば怯えるように過ごしたが、昨夜マンションに押しかけてきて事は一気に解決してしまった。

 真壁との関係と、課せられていた〝思い出す〟という難題と。

 椿は立ち上がり、チェストの前にやって来た。

 大きなガラスケースには椿の足のサイズの江戸切子によるガラスのピンヒール。隣の小さなガラスケースには十センチほどのガラスの靴。どちらも真壁の真心から贈られたものだ。

 椿にとっては単なる贈り物などではない。椿のすべてを支えてくれた大切なものであり、これからを支えるものでもある。

(匠さん・・)

 愚かにも〝あしながおばさん〟である百合子のことばかり考えていて、その家族のことに気が回らなかった自分が情けなく、恥ずかしい。真壁の家族と一緒に過ごした昼の時間も幸せを予感させるものだった。

 椿は自分が百合子だけではなく、真壁家全員に見守られていたんだとつくづく思った。そして歓迎されていることも。

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